「フランダースの犬」に描かれているもの




この小説「フランダースの犬」には
1860年代のフランダース地方における
幾つか重要な情景が描き出されています。

それらは 今日(特に 第二次世界大戦以後)見られなくなった
あるいは少なくとも欧米や日本では見られなくなったものであったり
ヨーロッパではごく普通であったけれども 日本には無かったものであったり
あるいは フランダース地方特有のものであったり
いろいろです。

それらの幾つかを この項では御紹介します。


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【1】 子供の労働と非就学

ネロは ジェハンおじいさんが老いと病とで仕事が出来なくなってから
パトラッシュと一緒に 牛乳を入れた缶を乗せた荷車を牽いて
5km程離れたアントワープの町まで 牛乳を売りに行っていました。
15歳で亡くなるまで この繰り返しの毎日でした。
つまり 子供でありながら 毎日仕事をしていた訳です。
ということは 学校には行っていませんでした。

このような子供の労働は 第一次世界大戦前までのベルギーでは
(他のヨーロッパ各国でも同様ですが)
一般的なことでした。

この様な労働する子供=非就学児の姿が この物語には描き出されています。


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【2】 犬が牽く荷車

パトラッシュは 牛乳缶を載せた荷車を毎日牽いていましたが
初めの飼い主の下では 雑貨を載せた荷車を牽いていました。
このように 犬が荷車を牽くのは
フランダース地方を含む北西ヨーロッパ(オランダ/ベルギー/ドイツ/フランス)ではごく普通のことでした。
馬は 値段が高く 餌にもお金がかかったのに対して
犬はほとんど只だったからです。
(→「パトラッシュ」と 「このお話のテーマ」の項も御参照下さい。)
この様な労役犬の姿と 人間との関わりとが この物語には描き出されています。


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【3】 風車

フランダース地方においては 風車はとても重要なものでした。
そもそも 北ヨーロッパにおける風車は フランダース地方が発祥だとされていますが
ヨーロッパ全般において
石炭を熱源とする蒸気機関の発明による産業革命が起きるまでは
風車と水車とは 唯一の動力源でした。
ですので
19世紀半ばまでは
フランダースのどこででも 風車は見られるものでした。
しかし 産業革命が始まってからは
だんだんと風車は不要なものとされて
19世紀後半には アントワープ市内の全ての風車が取り壊されました。

この様な フランダース地方ではとても普及していた風車の様子が
この物語には描き出されています。


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【4】 産業革命

イギリスにおいて18世紀半ばに始まった産業革命は
海を渡ったヨーロッパ大陸にも波及してきました。
ベルギー南部の丘陵地帯では 石炭が取れたために重工業が起こり盛んになりましたが
しかし 平地であるフランダース地方は石炭が採れませんので 重工業が起きるのは遅く
ネロの時代 1860年代終わりまでは 農業がほとんど唯一の産業でした。
1870年代に入ってから
ホーボーケン村をはじめとするフランダース地方で産業革命が盛んになり
その後 村や町の様子は激変していくことになります。

その様な 産業革命に乗り遅れた ネロの時代のフランダースの農村の様子がこの物語には描き出されています。


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【5】 都市と農村の貧富の差

産業革命に乗り遅れた農村の人々が
貧しい生活をしていたのに対して
都市の人々の生活は豊かになりつつありました。
アントワープの港は 1863年に再開され
アントワープの町は 港町として急速に発展していきます。
この小説においては アントワープの町が
港町として商人にしか興味をもたれないかのように描かれています。
また 絵のコンクールでネロが落選し
金持ちの港主の子が一位となったことにも
この貧富の差が描き出されています。


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【6】 大聖堂のルーベンスの絵の拝観料

小説「フランダースの犬」では
大聖堂内のルーベンスの絵を見るのには拝観料を払う必要があった と描写されていますが
これは本当のことでした。
かつ その拝観料とは 銀貨一枚分の値段であり
これはその当時としては かなりの金額でした。

本来 誰でもが入れた大聖堂の中で
(教会の建物に入るのは自由でした)
この様に 特定の美術品の鑑賞に兆課することによって
教会の収入源としていたその当時の様子が この物語には描き出されています。

大聖堂の前の広場は 「手袋市場」と名付けられていますが
ここはそもそも大聖堂の土地であり
ここで年に何度か 手袋など皮革製品を売る市が行われました。
その市で出された店から徴収した店子料を教会の収入源としていたのです。
あるいは 今でもその広場に面した建物のほとんどは(カフェなどになっていますが)
大聖堂の所有であり
その賃貸料も 教会の収入源となっています。


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