風車の構造と種類




風車は 大きく分けて
木で出来ているものと 煉瓦または石で出来ているものとがあります。
それにより 構造は大きく変わってきます。

(イスラム圏で使われていた 縦軸型風車については ここでは扱っていません。)

風車は 風の力によって羽または帆の付いている軸を回転させるものですから
効率良く風を受けるために 羽または帆の向きを変えられるようになっているものがあります。
木造のものは
建物本体そのものを風の向きに合わせて回転させられる
「下部回転式」となっているものがほとんどなのに対して
煉瓦または石造りのものは 建物本体の上に被せられた 回転軸の付いている部分のみが風の向きに合わせられる
「上部回転式」となっています。
また これは
建物の内部から向きを変える「内回転式」と
建物の外側についている歯車によって本体を回転させる「外回転式」
という分類とほぼ共通しています。

構造の違いによる名称としては以下のようなものがあります。

移動風車・・・16世紀にオランダで発明されたもので 主に東フリースランドで
湿地帯での排水に使われました。
20世紀半ばまで使われましたが
現在残されているのはオランダでも僅か15基のみです。
これは 「アルキメデスのスクリュー」と呼ばれる螺旋状の排水ポンプが
羽の付けられている軸棒に直結されているだけのとても簡単な構造をとっています。
その地域の排水が必要なくなったらば 移動できるように
小さく作られているからです。

オランダの移動風車
オランダの移動風車


桁風車・・・ヨーロッパにおける最も古いタイプの風車。
12世紀からフランダース地方(ベルギーと北フランス)で使われ始め
ヨーロッパ中に広がりましたが 特に風の豊かな北ドイツで普及しました。
ですので 「ドイツ風車」とも呼ばれます。
このタイプは 典型的な「下部回転式風車」です。
建物自体が縦の軸棒によって支えられ 風の向きに合わせて回転させられるようになっています。
建物には外に付けられた階段から上がっていきます。
石の基礎の上に建てられるのが一般的でしたが
風車自体は全て木でできていましたから 特に回転軸棒は虫食いや磨耗などが無いか
定期的な点検が不可欠でした。

木造の風車はしばしば解体して移築できるようになっていました。
これは 戦争の時に便利だったからということもありますが
町が大きくなるにつれて 風車の近くに建物が建てられると風を充分に受けられなくなりますので
もっと風の豊かな場所へと移ることができるように との理由からです。

ほとんどの場合 このタイプの風車は 建物は四角形に作られています。
また 外側に物置が付けられていることもありました。

桁風車(ドイツ・ハノーファー)
桁風車(ドイツ・ハノーファー)


筒風車
これは 上記の桁風車から発展したものです。
木製の建物(この部分が風の向きに合わせて回転できます)は
羽が付けられている横軸と それに連動した縦軸(王軸と呼ばれています)が収められているだけで
王軸は建物の下の固定部分まで伸びており その固定部分の中に
実際に作業をする臼/鋸/槌などがありました。
ですので 固定部分に対して 回転部分は小さく作られています。

(回廊付き)筒風車
(回廊付き)筒風車


蜘蛛型風車
上記 筒風車の更に小さいものが 蜘蛛風車と呼ばれるものです。

蜘蛛型風車
蜘蛛型風車


軸風車(開型または半開型の箱が 軸の周りに付けられている風車)

跳ね風車(軸風車から発展したもの)

木挽き風車(木を切る目的の風車)

塔風車・・・中世が起源の円柱形の石造りの風車。
これは13世紀から14世紀にかけて 要塞・城壁などに付属する形で建てられたものです。
建て物本体は石造り(または煉瓦造り)ですが その上に羽の軸を受ける木製の屋根が被せられていました。
しかし 初期のものは 羽の向きを変えることはできませんでした。
ですので 建てる時に その土地で最も多い風向きを選んで羽の方向を決めました。
ヨーロッパでは このタイプは14世紀以来 主に 地中海沿岸で使われました。
オランダでは 建物本体は同様に円筒形ですが
屋根を回転させて羽の向きを変えられるようにしたものが使われました。
(ですので オランダ塔風車と呼ばれています。)
15世紀初めに建てられたこのタイプの風車がオランダ南部に現存していますが
オランダのみならず 西ヨーロッパ全域に広く普及しました。
塔風車という呼び名は 円筒形のものだけのことで
円錐形のものは「丸石」「回廊風車」「山風車」などと 違う名で呼ばれました。

塔風車
塔風車


オランダ風車
16世紀はじめにオランダで発明されたので この名が付けられました。
煉瓦または石造りの土台の上に 木造の八角形または十二角形の建物が載せられ
羽の付いている屋根の部分だけが風向きに合わせられるようになっています。
建物自体は動きませんから 大きく建てることができ
(最大のものは 高さ30mありました)
それにより 羽も大きく作れますので 大きな出力が得られました。
建築費が高いという難点はありましたが
北ヨーロッパに広く普及しました。

オランダ風車
オランダ風車


回廊風車
しかし それ以上に大きく作ることは 羽の手入れや回転部分の点検の都合上 できませんでした。
ですので 建物の周りに回廊を付けた
回廊風車が作られるようになりました。
このタイプの最大のものは(世界最大の風車でもありますが)オランダにある高さ43mのもので
円錐形の石造りです。

回廊風車
回廊風車


大きな回転翼を作る別の可能性として
山風車が作られました。
このタイプは8角形か6角形の木造 または丸い石造りものがほとんどです。

山風車
山風車


地面帆風車
大きな回転翼を作るための別の方法として
回転翼を地面すれすれまで大きくした形も作られました。
このタイプも建物本体は 丸い石造り または8角形か6角形の木造がほとんどです。
周りに風を遮るものが無い
オランダ北部や 東フリースランドで使われました。

地面帆風車
地面帆風車


Paltrock パルトロック風車
もう一つオランダ風車とは別の発展形として作られたのが
パルトロック風車で これは
建物全体が ローラー環の上の載せられていて 風の向きに合わせて回転できるようなっている
下部回転式風車です。
大抵は 桁風車から改造されたものですが
これにより 安定性・耐久性が増し 建物内部のスペースも広くなりました。
ただし 建物の方向転換には細心の注意が必要でした。
このタイプは オランダ風車よりも安い建築費で
同じ出力のものが作れました。
パルトロックとは
ドイツのPfalzパルツ地方の民族衣装のスカートの形から来ています。
(Pfalz=パルツ rock=スカート)
建物自体が大きなマントを着ているように見えることからこの名が付けられたようです。

パルトロック風車
パルトロック風車


特殊な風車
風車と水車とを組み合わせたものもありました。
主に 山間の小川沿いに建てられたものですが
普段は水車として 風が充分にあるときは風車として使われました。
王軸は一つで 水車と風車とで共有しています。
ですので 風力と水力とを同時に使えるわけではありません。

もう一つの特殊な形が
アメリカ風車 または 西部風車と呼ばれるものです。
これは アメリカ合衆国において 20世紀はじめに発明され
過去数百万基も使われていたもので
主に排水用でした。
ただし 伝統的な風車とは形が違うことから
「風車」というよりも「風輪」と呼ばれていました。

アメリカの風車
アメリカの風車


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羽の構造もまた 幾つかの種類があります。

まず 素材として
木または金属で出来ている羽か 布で出来ている帆か という違いがあります。

そして 羽が幾つ付けられているかの違いがあります。
大抵は 十字の形をしていましたから 四枚の羽でしたが
場合によっては 五枚か それ以上のものとしては
六枚や八枚のものもありました。
イギリスでは特に 五枚以上のものが多く使われました。
ただし 羽の数が多いものは 風の強さに合わせて使う数を変えられ
八枚の羽を持ったものは 常に八枚が動くのではなく 四枚だけを使ったり
六枚の羽のものは 三枚または二枚のみを使ったりもできるようになっていました。
アメリカの風車(または風環)は 沢山の羽が付けられているのが普通でした。
少なくとも六枚で ほとんどのものはそれよりも多く
12枚や24枚の羽のものもありました。
羽の数を増やすと 弱い風でも動かすことができるという利点があります。


羽の構造上最も重量なのは 羽の傾き具合です。
風車は 横に流れる風を 羽の縦の面で受け止めて回転させ 回転軸の運動を起こしているものですが
回転軸から近いところ(羽の元)と 逆に遠いところ(羽の先)とでは
動く速度が違います。
羽の元は速度が遅く 羽の先は速度が速くなりますので
羽の角度は 元と先とで変える必要があります。
大抵は 羽の元は角度が強く 羽の先は角度が緩くなっていましたが
この 風の力を最大限に効率良く受ける羽の角度の付け方は
長い間 それぞれの風車大工の秘密とされてきたものです。

羽はほとんどの場合
時計回りに回転します。
ですので 逆回りの風車は「間違った風車」と呼ばれました。



また
風車を動かしていない時の 羽の停止位置を
何らかの合図としていた「羽言葉」がありました。
風車が(=粉挽き職人が)休んでいる時に それが遠くから分かれば
風車まで無駄足を運ぶことが無くなります。
たとえば X=終業  +=休憩  右に傾いた十字=吉事  左に傾いた十字=凶事
というように表していました。 
ただしこれは 地方により その意味は違っており
ヨーロッパ中で共通したものではありません。


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